ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ウインド・リバー / アメリカ最大の失敗から学ぶべきこと

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アメリカ中西部にあるネイティブアメリカンの保留地 “ウインド・リバー” で少女の凍死体が発見され、地元のベテランハンターのコリーが案内役として新人FBI捜査官ジェーンに協力することになった。

慣れない雪山と不安定な気候の中、ジェーンは事件の多くが未解決となってきた保留地の現状を思い知るが、少女の不審な死の糸口を掴んだコリーと共に捜査を続行する。



その昔、白人たちの侵略により土地を奪われ保留地という名の僻地に追いやられた先住民(ネイティブ・アメリカン)。
彼らの多くは今もなおアメリカ政府が用意した保留地で生活しており、本作の舞台であるウインド・リバーもその一つであります。

冬は深い雪に閉ざされ、厳しい寒さと吹雪に見舞われる。
冒頭の少女の死因が、吹雪の中を走って逃げるうち 吸いこんだ冷気 (マイナス30度て!) で肺が凍り破裂してしまった からということからも、ウインド・リバーがいかに厳しい環境であるかがわかります。


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しかもそれだけではありません。テイラー・シェリダン監督の言葉を借りれば、

そこは地形自体が敵のように向かってくる冷酷な地です。 ガンよりも殺人による死亡率が高く、強姦は大人の女性になろうとしている少女にとって通過儀礼であると見なされているような場所なのです。 またそこでは、法の支配が自然の支配に屈します。

DIRECTOR’S INTERVIEW│『ウインド・リバー』公式サイト

というとんでもない無法地帯なんですね。


すべてを奪われ破壊されてしまったネイティブアメリカンたちは、先住民族としてのアイデンティティも壊れてしまった。
生きる目的を失った者たちの多くが酒や薬物やギャンブルに依存し、その結果レイプや殺人などの犯罪が異常なほど多いという深刻な社会問題となっているんですね。



保留地で犯罪を犯すのはネイティブアメリカンだけではありません。無法地帯なのをいいことに悪事をはたらく輩もいます。

と言うのも、1978年の連邦最高裁判決で
「ネイティブアメリカンの土地で非ネイティブアメリカンが犯罪を起こしても、ネイティブアメリカンには逮捕する権利がない」
という目を疑うような裁定が下されているんですね。

なので、終盤の銃撃シーンでは 部族警官が武器を構えた男たちをさっさと逮捕できず、お互いに銃を向けたままの膠着状態になってしまう。

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てかそもそも鹿児島県と同じくらいの面積があるウインド・リバーに部族警官が6人しかいないってのがね、なんじゃそりゃです。
(今は30人に増員されたらしいけれど、それでもねぇ)
自治権と言うと聞こえがいいけれど、要は保留地の治安など知ったこっちゃない、ってことですよね。

「数ある失踪者の統計の中にネイティブアメリカンの女性のデータは存在しない」

との一文を見て背筋の凍る思いがしたのはわたしだけではありますまい。

これは昔の話ではありません。
先日『荒野の誓い』を観たばかりで、D・H ロレンスの「アメリカの本質は人殺し」という言葉が記憶に新しいところですが、先住民を殺しまくって奪った土地に成り立つアメリカという国の根っこにある差別・排除意識とか残虐性といったものは、いまだに根強くあるわけです。


実は本作は、『ボーダーライン』『最後の追跡』に次いで “現代アメリカの辺境の地の現実を探求する三部作” の完結編なのだそうです。

『最後の追跡』は未見なのでコメントできませんが、『ボーダーライン』は メインとなる事件を通してアメリカの “毒を以て毒を制すやり方” 、言い換えれば “暴力の前では法も正義もゴミ同然” という現実に打ちのめされるお話でした。


『ボーダーライン』の感想はこちら↓↓↓
berukocinema.info

本作では少女の死の真相をコリーとジェーンが探るというサスペンスの体を取りながら、アメリカでも知らない人が多いであろうネイティブアメリカンの置かれた状況やその背景を描くことで広く問題提起がなされているんだなと感じます。

そしてこれは一つの国の問題に限ったことではなく、様々なレイシズムや偏見がはびこる世の中全てに当てはまる “人の心の闇” というミニマムなところにもつながる話なわけで、そういった意味でも非常にタイムリーでメッセージ性の高い社会派映画と言えるでしょう。
ちなみに『最後の追跡』はネトフリにあったので、近日中に観てみようと思っています。


本作は保留地における殺人事件を題材にしたサスペンスですが、主人公のコリーが先住民と結婚した白人であること(ある理由で離婚したけれど)や、ジェーンが若く経験の浅いFBI捜査官であるというのは、ストーリーにドラマ性を持たせる上で非常にいい設定だと思います。

白人とネイティブアメリカンとの民族を超えた交流や友情、親子関係、若い女性の精神的な成長など、人間ドラマとしての要素もきちっと押さえてあるし、ベテランハンターであるコリーのスナイパーぶりもちょうかっこいい。

弓をライフルに持ち替え狙いを定めるホークアイジェレミー・レナーにはもう、痺れまくり惚れまくりでしたよね!

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というわけで、エンタメとしても見応えのあるこの映画、テイラー・シェリダンの優れた作家性が存分に発揮された見事な作品だと思います。おすすめです。




作品情報
▶原題 Wind River
▶監督 テイラー・シェリダン
▶脚本 テイラー・シェリダン
▶製作年 2017年
▶製作国 アメリカ
▶出演 ジェレミー・レナー, エリザベス・オルセン