ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

トスカーナの幸せレシピ / かくして“神の舌”は受け継がれ

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暴力事件で収監されていた元三ツ星シェフのアルトゥーロは、出所後の社会奉仕活動先でグイドという料理オタクでアスペルガー症候群の青年と出会い、彼の持つ絶対味覚と料理の才能に驚く。

程なくしてグイドの若手料理人コンテストへの出場が決まり、成り行きでアルトゥーロは指導役として渋々同行するはめに。開催地のトスカーナへ向け、即席師弟の珍道中が始まるのであった…。



やたらと『幸せ』を入れたがる邦題。本作もご多分にもれず『幸せレシピ』となっていますが、原題の『Quanto basta』は「ちょうどいい」という意味。調味料でよく「適量」と書いてあるアレですね。


グイドはアスペルガー症候群のため「適量」がわかりません。「小さじ1」のように量を指定されないと、どうしていいのか迷ってしまう。
これは日常生活でも同じで、アスペルガー症候群の多くは「だいたい」「ほどほど」なんていう曖昧な表現でけっこう苦労します。

また会話においては、言葉のニュアンスから本音を汲み取るとか、比喩表現を現実に置き換えるとか、そういうのが非常に難しい。
なのでトンチンカンな受け答えをして馬鹿にされたり余計な物言いで相手を怒らせたりして、さらにコミュニケーションが苦手になってしまうんですね。


そんなわけで、トスカーナまでの道中また現地でもいろんなハプニングがあり何かと大変です。
アルトゥーロはグイドの一挙手一投足に振り回されつつ どうにか対応をするんだけども、わたしがとってもいいなあと思ったのは、アルトゥーロが元々アスペルガー症候群についての知識がなかった ということ。


これね、中途半端に病気のことを知ってたら、短い期間であそこまでグイドと通じ合うことはなかったと思うんですよ。
知らないからこそ特別視せず変な同情も気遣いもなくズバッとものが言える。


「抽象的じゃなく具体的にわかるように話せばいいんだな」それだけなんですね、アルトゥーロは。それが良かった。

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「レシピに書いてある適量ってどのくらい?」

「おまえが味見して美味いと思えばいいんだ。それが適量だ。」

これはもう最高のアドバイスだと思いました。
決められた基準やルーチンで機械的にしか動けないグイドに、自分で考え判断することや人によってものの程度や感じ方が違うのだということを教えたんですね。
世の中はゼロか100ではない、曖昧なのがちょうどいいこともある。つまり「ほどほど」という感覚をグイドは学ぶわけです。



本作はいわゆる「バディもの」のロードムービー、しかも真反対の者同士が人間的に成長していくという王道中の王道であります。

王道に加えて極端に悪い人が出てこないし、そこまで非情な出来事も起きないというので、盛り上がりに欠けるとかハラハラ感がないとかいう意見もちらほら見かけましたが、わたしはそうは思いません。そういうお話じゃないからです。

極悪人の登場も主人公への意地悪も、万事休すな命の危機もこの映画には一切必要ない。


極端なことを言えば、二人のキャラクターがいい所も悪い所も含めて生き生きと描かれているだけで十分面白い作品だなあと思うのですよね。

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また、人間的成長と言ってもそんな大袈裟なものではありません。
師弟と言いつつ友達のような信頼感とか、お互いを心配する気持ちとか、たまにどっちがどっちを支えているのかわからない滑稽さ とか、そういうのがほんわかと伝わってくるのがいいんです。

たった数日ですからね、たぶん二人とも大した成長はしていない(笑)その代わり二人のおこす化学反応がとてもハートフルで微笑ましく、時に胸にぐっとくる。
結局ロードムービーってそういうものじゃないでしょうかね。それこそ「ほどほど」のストーリー展開だから観ていて心地いいのだとわたしは思います。


コンテストの決勝で、料理の仕上げに “あるもの” をかけるかかけないかでグイドは迷います。
与えられたレシピ通りそれをかければ完成で、おそらくグイドが優勝だろうという場面です。

ここは特に好きなシーンなんだけども、「先生ならかけない」という短い言葉にグイドの思いが全て詰まっているように思えてなりませんでした。


結局グイドは自分の意思で優勝を逃してしまいます。自分の舌を信じたわけですね。

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料理名は忘れてしまいましたが (ナントカのナントカ風?)、アルトゥーロやその師である巨匠に言わせれば「あんなものを振りかけるなんてバカ」だそうなので、かけないほうがきっと美味しいのでしょう。
「いろんなソースで誤魔化すな。イタリア料理はトマトソースが命だ!」と事ある毎に力説していたので、洒落た創作料理には目もくれず昔ながらの本格イタリアンを極めてきた人なんだろうと思います。

アルトゥーロはグイドを責めません。むしろ誇らしげに健闘を称えます。
きっとアルトゥーロは、勝ち負けではなく本当に誰もが美味しいと思える料理を出したい という信念がグイドにもあったことが嬉しかったのだと思いますね。


人生はレシピ通りじゃつまらない。
寄り道しても失敗してもいいじゃないか。何度でも味見しながら自分の味を見つけよう。
何事も自分にとっての「適量」がわかれば、人はもっと生きやすくなるんじゃないかな。人生が楽しくなるんじゃないかな。

そんな優しいメッセージを受け取った気がする、とっても素敵な映画でした。
料理はそんなにたくさん出てこないけれど、どれも美味しそうで観ていてお腹がすいたのは間違いありません。
あの「ナントカのナントカ風」食べてみたいなぁー。


最後に、優しくて天真爛漫なグイドを見事に演じきったルイジ・フェデーレ が何気にイケメンなので貼っておきますね♡(///ω///)
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作品情報
▶原題 Quanto basta
▶監督 フランチェスコ・ファラスキ
▶脚本 フランチェスコ・ファラスキほか
▶製作年 2018年
▶製作国 イタリア
▶出演  ルイジ・フェデーレ, ヴィニーチョ・マルキオーニ