ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

9人の翻訳家 囚われたベストセラー / 文学の魔力に酔いしれ翻弄される105分

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世界的ベストセラー『デダリュス』完結編の翻訳のために選ばれた9人の翻訳家は、地下シェルターのごとき密室に閉じ込められ、外出や電話、インターネットも全て禁じられた。

ところが最新鋭のセキュリティを突破して原稿の一部がネットに流出し、出版社社長のもとに「金を払わなければ続きの原稿を公開する」との脅迫メールが届き始める。



トム・ハンクス主演で映画化もされた有名なミステリー小説『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ。

本作は、当該シリーズの第4作目『インフェルノ』出版の際、世界同時出版かつ違法流出を防ぐため出版元が各国の翻訳者たちを秘密の地下室に隔離して翻訳作業を行わせた、というびっくりするような実話が元ネタなのだそうです。

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実際『インフェルノ』のときは原作者ダン・ブラウン氏の同意を得てそういうことをしたそうですが、はっきり言って隔離じゃなく人権無視の監禁ですよね。

念には念を入れてということなんだろうけど、ちょっとやり過ぎのような気もします。


f:id:madamkakikaki:20200726160807j:plain 翻訳家の皆さん。残念ながら日本人はおらず。


タイトルの通り本作には9人もの翻訳家が出てきますが、皆さん個性的な演技派揃いで、誰が埋もれることもなくそれぞれが記憶に残るいい存在感を放っていました。

特にロシア語翻訳家のカテリーナを演じたオルガ・キュリレンコ。言わずと知れた元ボンドガールですね。

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この人は超美人でスタイル抜群とただでさえ目立つんだけど、『デダリュス』に入れ込むあまりヒロインのコスプレをしないと翻訳に身が入らないとか、ヒロインの気持ちに同化しようとプールの底に沈んでたら溺れてると勘違いされたりとか、面白いというよりかなりヤバいキャラクターを上手く演じてましたね。

あと、主役のアレックス(アレックス・ロウザー)を差し置いて何ですが、中国語翻訳家のチェンを演じたフレデリック・チョー。 『LUCY / ルーシー』でハリウッドデビューした、今や世界的に知られるフランスの俳優・コメディアンです。コミュニケーション能力の高いムードメーカー的な役割がとてもよく似合っていました。

同じアジア人だからというわけではないけれど、わたしはこの人がキャラ的に一番のお気に入りです。

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意外とかっこいいチェンさん



この映画が面白いのは、「誰がどうやって原稿をネットに流出させたのか」という謎解きにとどまらず、終盤のどんでん返しの中にその動機が明らかにされる というところです。

犯人については早い段階でおや?と思うような伏線があるのでわかる人はすぐわかるだろうし、わからなくても “あるシーン” で突然顔が出てきて「ぬおお!」となります。笑
でもその先の展開は全く予想もつかない。


種明かし(犯人が下準備する過程)が語られていくシーンはさながら『オリエント急行殺人事件』の一部のようです。ただ本作はある人を殺すのではなくギャフンと言わせるのが目的なんだけどね。


で、原稿をアレコレするあたりは若干出来過ぎかなあと思う部分もあるけれど、観進めていくと「えーっ!そうなの?!」とびっくりするし「うわぁ、そんなことまであったのか」とさらにびっくらたまげるという二重の仕掛け。

と同時に、冒頭の本が燃えるシーンの意味がわかって収まりがつくというね、広げたものはきちんと畳む真っ当なミステリー作品でありました。


f:id:madamkakikaki:20200726161318j:plain 今さらながら主役のアレックス君。そりゃ居眠りもするわな。



ネットでのタダ読みや海賊行為によって痛手を受けている出版界の現状、また優れた文学作品を世に出すという 出版の志を忘れ本を金(カネ)としてしか見ない拝金主義者への警鐘を含んでいるとも取れるこの映画、実際に出版に携わる人々の目にはどう映ったのか、非常に興味のあるところです。


また、翻訳という仕事の大変さや奥深さについて垣間見ることができたのも良かったなあと思います。本も映画もただ訳せばいいってもんじゃないですものね。
ちょっとアレじゃないのと思うくらい作品に入れ込み、登場人物に惚れ込んでこそ読む者を惹きつける翻訳ができるんだろうなぁ・・・ 劇中の彼らを見ていてあらためてそう思いました。


そういえばうちの娘は大学に入るとき「字幕翻訳家になりたい」と言っていたけれど、果たしてその勉強は進んでるんだろうか?
最近なにかと遊び呆けたように大学生活をエンジョイしている娘の姿に一抹の不安をおぼえる母でありますよ・・・。




作品情報
▶原題 Les traducteurs
▶監督 レジス・ロワンサル
▶脚本 レジス・ロワンサル
▶製作年 2019年
▶製作国 フランス・ベルギー
▶出演 ランベール・ウィルソン, オルガ・キュリレンコ, アレックス・ロウザー ほか