ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ボーダレス ぼくの船の国境線 / 半分寓話と思って観ないと辛すぎる・・・

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緊迫するイランとイラクの国境地帯。少年は川に放置された廃船を隠れ家にし、魚を釣ったり貝殻でアクセサリーを作ってはお金に換えながら一人で暮らしている。
ある日、国境の反対側から同い年くらいの少年兵が船に闖入し、こっちは自分の陣地とばかりにロープを張って勝手に物を持っていき始めた。
厳しいながらも平穏な生活をぶち壊された少年は怒りをあらわにするが、言葉も通じなければ相手が銃を持ち出してくるのでどうすることもできない。

そんな対立した状態のまま数日が過ぎ、少年は船の中で赤ちゃんを抱え震えている少年兵を見つける。そしてこの日を境に二人の間に不思議な連帯感が生まれるのだが、さらに新たな闖入者が現れて船の中はますます大変なことに…。



2014年の東京国際映画祭で『ゼロ地帯の子どもたち』のタイトルでプレミア上映され、“アジアの未来” 部門作品賞を受賞したイラン映画です。

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イラン映画は子供を主人公にした作品が多いのですが、その理由は1979年のイラン革命後強化された検閲で直接的な政府批判と見なされることを避けるためだと言われています。


本作も、イラン・イラク戦争後もなお紛争の続く中東の厳しい現実を描いていますが、ド派手な戦闘シーンや大人同士のやり取りは一切ありません。
主人公や少年兵の背景も一切語られないし、台詞もほんの少ししかありません。ただひたすら生きようとする子供たちの姿がそこにあります。
そしてこの子たちは特別なケースでも何でもない。彼らと同じような境遇で必死で生きている子供がたくさんいるんだということを改めて思い出します。



実は船に闖入してきた少年兵は女の子でして、あとで連れてきた赤ちゃんは彼女の妹か近所の子だと思われます。
状況からして、空爆のあと生き残った赤ちゃんを抱えて逃げてきたのでしょう。

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で、この赤ちゃんのおかげで(と言ってもいいと思う) 次第にお互いの警戒心が解け、ミルクをあげたりあやしたりとぎこちなくお世話する姿が小さいお父さんお母さんみたいで微笑ましく観てたんですが、

まぁこの少年のイクメンぶりが素晴らしくてですね。

「そんなの母親がするもんだろ」つって奥さんに育児全般押し付けてる旦那どもはこの映画を観て大いに反省するといいよ!



それにこの少年、ミルクと一緒に女の子用の服も買ってくるんですよ。でも彼女の気持ちを慮り、直接渡さずそのへんにさり気なーく置いておく。
なんだこの男前な少年は。イクメンで男前とかさいこうじゃないか。


少年は自分の身の上について最後まで一切話さないけれど、きっとこの子には歳の近い妹とか小さい兄弟がいて、普段からよく面倒をみてあげていたのだと思いますね。
女の子に対する気配りなんかも、お母さんから教えられていたのかもしれません。ま、このへんはあくまでわたしの勝手な妄想想像ですけどね。

だけど少年は一人になってしまったんです。
おおかた想像はつきますけども、家も家族も失ってしまった。そう思うと非常に胸が痛みます。



あらすじで書いたように、少年の船にはもう一人闖入者がやってきます。今度は大人です。
で、ここでもまたひと騒動あるのですが、やはり少年の「弱い者・困っている者を助ける」 という行いにより徐々にお互いの心の壁が取り除かれていきます。

映画を観ている側は字幕があるのでそれぞれが何を言っているのかわかるんですが、彼らは身振り手振りで意思を伝え合うしかありません。
でも間違いなく彼らの心は通じ合い始めていました。


ペルシャ語・アラビア語・英語 ・・・
言葉は通じなくとも、お互いを分かり合おうとする気持ちがあればどうにか伝わるものだ。だって同じ人間なのだから。


少なくとも終盤、この船の中にボーダー(境界線)はありませんでした。
なので『ボーダレス』に対して “ぼくの船の国境線” という副題はちょっとどうなの、と思ったりもしますが、まぁ文句ばかり言ってもしょうがないのでまとめます。



アミルホセイン・アスガリ監督は、本作を撮るにあたり演技経験のない現地の子供たちを起用したそうです。
この「あえてプロを使わない」というのは同じイラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミ監督の好むやり方ですね。


↓↓↓ アッバス・キアロスタミ作品『友だちのうちはどこ?』


こういう作品を観るたび感じるのは、ハリウッドのように巨額の制作費や最新の映像技術を持ってしても表現できないであろう、特別な魅力です。
登場人物のおかれた状況こそ違えど、わたしたちに近いというか身の丈の自然な描写ですね。

この作り込まれていない感じが観る者の心にすっと入ってくるし、地味なんだけどぐいぐい惹き込まれる。


そんなわけで、ひとつだけ残念な点を言うと 二人目の闖入者の独白シーンはちょっと喋らせすぎ、いやむしろ無くてもよかったのかなあと思います。
(もしかしたら何某か監督の意図があったのかもしれませんが、そこまではわたしにはわかりません)



ラストシーンは非常に曖昧ですが、本作の背景を考えると何が起きたのかは容易に想像できるかと思います。

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できますればこれが少年の夢であってほしい。

少年は夢を見ていたのだ。目が覚めて起き上がり、また普段どおりの日課をこなす・・・
そんなお話だったらどんなに良かっただろうか、などと思いながらエンドロールを眺めておりました。とてもいい映画です。




作品情報
▶原題 Bedone Marz
▶監督 アミルホセイン・アスガリ
▶脚本 アミルホセイン・アスガリ
▶製作年 2014年
▶製作国 イラン
▶出演  アリレザ・バレディ, ゼイナブ・ナセルポァ