ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ナイチンゲール / その暴力とレイシズムから目を逸らすなかれ

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些細な罪でタスマニア島に流刑されたアイルランド人のクレアは、その美しい容姿と歌声を気に入った英国軍将校ホーキンスに囲われ 奴隷のように扱われていた。
クレアの夫エイデンは妻が刑期を終えても釈放されないことを不服としてホーキンスに何度も抗議するが、逆上したホーキンスは部下と共にクレアをレイプし、彼女の目の前でエイデンと子供を殺してしまう。

復讐を決意したクレアは、ホーキンスが昇進を直訴するため駐屯地のローンセストンへ急ぎ旅立ったことを知る。
そして先住民アボリジニのビリーを道案内として雇い、ホーキンス一行を追うべく険しく危険な森の中に分け入って行くのであった…。



大国からの入植者による先住民の虐殺と女性への陵辱という「二つの暴力」を取り上げた『ウインド・リバー』という作品があります。
あれはアメリカインディアンのお話でしたが、本作の舞台はオーストラリア。いわゆる「ブラック・ウォー」を背景に描かれた非常に重く胸の痛いお話です。



※ブラック・ウォー ・・・ 1820年代に起こったイギリス植民者とタスマニアン・アボリジニの争いのこと。
1830年にイギリスの副総督ジョージ・アーサーは、タスマニア島内のアボリジニを一掃するため 流刑者まで含めた島内全ての男性入植者を動員した。彼らは横列を組み数週間かけてアボリジニを追い込み (ブラック・ライン)、イギリス人はアボリジニたちを動物に見立てて狩りをした。何という鬼畜の所業!!


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「私は、あなたのものではない」「復讐を歌え」なんていうキャッチコピーがいかにもリベンジ・スリラーぽくてですね。
わたしなんか復讐モノ大好物なので「いいぞもっとやれ! 目には目を歯には歯をケツにはケツをだ!」と拳を突き上げる気満々で観てたんですが、そんなエンタメ気分はどっかに吹き飛んでしまうほど重厚で、それでいて時に幻想的で痛みや悲しみさえ美しい。
なんだこのへんな感覚は。(褒めてるつもり)


要はあれです、歴史の恥部です。暴力と迫害の歴史であり、先住民への鎮魂です。



全体のストーリーとしては、自身も陵辱された上に夫と子供の命を残虐な将校らに奪われたクレアの復讐の旅です。

序盤30分くらいまでは、女性からすると特にショッキングだし 嫌悪感マックスで吐きそうなほど酷い内容でしょう。
ここがまず精神的にやられる部分だとすると、中盤クレアがホーキンスの部下をKILLする場面は画的にしんどいところ。
なんせナイフで胸をグサグサ、ばんばん返り血を浴びつつトドメに銃床で顔を叩き潰すのだからね。上映中席を立つ人が続出したというのもわかります。


でもそれだけ憎いということ。当のホーキンスじゃないのになぜあそこまでしたのか、それはあの部下がクレアの子供を殺したからです。
たとえホーキンスに命令され逆らえなかったにしても、愛する我が子の命を奪ったやつは絶対に許せない。

あえて誤解や批判を恐れずに言うなら、このシーンは非常に凄惨でエキサイティングで映画的には盛り上がるところです。復讐ですからね。
ところがこれを境にクレアの意気込みはどんどん失速していく。

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まあ身体的な疲労や空腹というのもあるでしょうが、怒りに任せて人を殺したことで精神的に病み始めるんですね。夢や幻覚で死者の亡霊を見るのもそのせいです。
部下を一人殺したけれど肝心のホーキンスにはなかなか追いつけない焦りと無力感。何がなんでもホーキンスの野郎ぶっ殺してやると復讐心に燃えていた自分がだんだん虚しく感じられてくる。

このあとクレアたちは高台からホーキンス一行を捉えますが、彼女は銃を撃つことができません。しかもホーキンスの撃った弾が肩に当たり負傷してしまう。
「なんでそこで撃たないんだよォ!」と腹立たしく思った人もいるでしょうが、もうクレアは完全に戦意喪失しているわけですね。


そしてここからもう一人の復讐者、ビリーにスポットライトが当たり始めます。このへんがね、単なるリベンジスリラーとは一線を画す上手い作りになっているなあと感心しました。
復讐に燃える者と「殺し返したところでなあ・・・」と若干引いている者が逆転するんですよ。ちょう面白くないですか? あ、映画的にって意味ですよ。



ビリーにとって白人といえばイギリス人であり、家族の命から何から全て奪った憎き敵でもあります。
一方、クレアはアイルランド人ですが白人なので、ほかの白人たちと同じく黒人を下に見ているし嫌悪感もある。
なのでクレアのことをイギリス人だと思っていたビリーと “雇い主”として高圧的な態度をとるクレアとの間には大きな溝がありました。

しかしそれぞれの身に起きた悲劇をお互いに知ったとき、ホーキンスは二人にとって共通の敵となり、計らずもビリーの抑えていた復讐心に火がつくんですね。
と同時に二人の間に連帯感が生まれる。お互いを思いやる気持ちが出てくるんです。
なので 最終的に手をくだすのはビリーということになって、思っていたほどのカタルシスは得られない。

どうかしたら『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』みたいなエグいやつを期待してたわたしとしては 正直肩透かしを食らった気分になったんだけど、本作のキモはそこじゃない。
いやわかってますがな、わかってるんだけどさあー。
結局巻き込まれたような形になったビリーが気の毒だと思った人いませんかねえ…。

ラストの海辺のシーンはとっても美しいんだけど、あのままビリーは死んじゃうのかなと思うと何とも複雑な気持ちになりましたね。
考え過ぎと言われればそれまでですが、まあ考え過ぎるくらい最後まで真剣に観たということです。



ちなみにこの映画、タイトルからしてそうですが「鳥」が効果的に用いられています。
ナイチンゲールとは小夜啼鳥(サヨナキドリ)のこと。夜鳴きウグイスとも呼ばれる、鳴き声の美しい鳥です。
美しい声でアイルランド民謡を歌うクレアにぴったりですね。

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ほかにも、森の中で迷子になったクレアがオウムのような黒い鳥(ビリーの鳥だっけ?) に導かれて目的地に続く道に出られたとか、ちょっとファンタジーっぽい要素があるのも お話の重苦しさを和らげる意味でいいなあと思います。



というわけで 繰り返しになりますが、本作は単なるリベンジスリラーの枠にとどまらず、

先住民アボリジニの迫害と虐殺の歴史、そして女性やアイルランド囚人への差別と非人道的行為を包み隠さず徹底的に見せた「告発映画」

と捉えることもできます。
その点では 冒頭で触れた『ウインド・リバー』よりもヘビーな作品と言えるでしょう。


berukocinema.info


そしてジェニファー・ケント監督も述べているように、こうした差別や暴力はいまだ世界中で続いている。過ぎ去った昔の話ではないんですよね。
「不快だから」という理由で観ないのは非常にもったいない、監督・演者ともに渾身の秀作 だとわたしは思います。


あ、そうそう。本作を観た全ての女性を敵に回したであろう将校ホーキンスの役は『あと1センチの恋』の優柔不断男サム・クラフリンなんですよね。
品格はおろかリーダーシップもないくせにイキってるだけ、最低最悪ケダモノ以下のウンコ野郎をみごとに演じていてたいへんりっぱでした。



作品情報
▶原題 The Nightingale
▶監督 ジェニファー・ケント
▶脚本 ジェニファー・ケント
▶製作年 2018年
▶製作国 オーストラリア
▶出演 アイスリング・フランシオシ, サム・クラフリンほか