ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

潜水服は蝶の夢を見る

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潜水服は蝶の夢を見る (2007年 フランス・アメリカ) Le scaphandre et le papillon 


世界的なファッション雑誌「ELLE」の名編集長だったジャン=ドミニク・ボービー氏の自伝を映画化した作品です。

1995年12月、43歳という働き盛りに突然脳出血で倒れたジャン氏は ロックトイン・シンドロームという身体的自由を全て奪われた状態になり、唯一動かせるのは左目だけでした。
この状態を彼は「潜水服に入っているようだ」と表現しています。
そんなジャン氏が言語聴覚士の読み上げるアルファベットに瞬きで反応することで意思を伝える訓練をし、実に20万回以上の瞬きをもって「執筆」した魂の手記がこの『潜水服は蝶の夢を見る』なんですね。

意識もちゃんとしてるし音も聞こえる。記憶だって失われていない。でも喋れない。
話したいことはたくさんあるのに、文字を指差すことも表情で気持ちを伝えることもできない。
ある日突然自分がそうなってしまったらと考えるとただただ絶望感しかないですね。いっそ死にたいと思っても自殺することすらできないんですから。
実際ジャン氏も「死にたい」と訴えて言語聴覚士が泣いちゃうシーンがありましたけれど、どちらの気持ちもわかるだけに胸の詰まる思いがしましたよ。

ピンぼけの映像とモノローグで非常にもどかしいオープニング、POVのようなブレブレの一人称視点、絶妙に挟まれるジャン氏の幻想と過去の記憶・・・
主人公は動けない病人であっても、こういう変化に富んだ演出のおかげで人物像がものすごくいきいきとしてきますし、余計な説明がなくてもこの人の人となりや聡明さが伝わってきます。
言語聴覚士と理学療法士が揃って美人でウハウハしてたのは面白かったなあ。
まあ病人と言えども男は男ですからね、視線がじゃっかんスケベおやじなのは大目に見てやってつかあさいよ 動けないんだからさあー。( ←完全に感情移入してるオレ )

ちなみに、ジャン氏役は元々ジョニー・デップの予定だったのが スケジュールの都合でマチュー・アマルリックに変更されたとのことですが、これ絶対マチューで正解だったと思いますよ。
いやジョニデは嫌いじゃないですけどね、フランス男の醸し出すエレガントさはやっぱりフランス人俳優じゃないと出せないと思うんですよ。まあ正直に言うとマチュー・アマルリックのほうがわたしは好きなんですけどね。わはは。

それはともかく、この映画とってもいいです。それはジャン氏の著書がいいからに他なりませんが、それを支えた言語聴覚士や口述記録者、元奥さんと子供たちの描かれ方も非常にいいし、なにより登場人物たちへの敬意が見て取れる。これは伝記映画では特に大切なことですね。
愛されて生きるってこういうことなのかなあと しばし余韻に浸りたくなるような、そんな素敵な作品でした。

ジャン氏は、本書がフランスで出版されたわずか2日後の1997年3月9日に亡くなったそうです。
まさに潜水服から蝶となって、彼は天国へと羽ばたいたのでありますね。

 

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2015/12/16
  • メディア: DVD