ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ちいさな独裁者

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ちいさな独裁者 (2017年 ドイツ) Der Hauptmann / The Captain


ドイツ敗戦直前の混乱期。若き脱走兵が偶然手に入れたナチス将校の軍服を着て身分を偽り、騙された兵士たちを部下に従え冷血非道な暴君へと変貌していくというびっくり仰天の実話。
「主役は軍服でっせ」と言わんばかりの日本版ポスター、珍しくいいビジュアルで良き。

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竹内一郎氏の『人は見た目が9割』という著書の中に「外見の威力」という言葉があります。
人は相手から言葉としての情報は7%しか受け取らない。相手を信じるか もしくは惹きつけられるかという点においては言葉の内容よりもまず外見だということです。一目惚れなんてのはまさにそうですね。


考えてみれば制服もそうです。独断と偏見で言いますと 警察官とか自衛官とか海上保安官とか「官」とつく制服組は顔が多少アレでもモテます。軍人さんもそうです。制服着てるだけでかっこよく見えるんです。
「キャー素敵♡」と思ってデートにこぎつけたら私服が超ダサくて全然イケメンじゃなくて幻滅した、なんて話も聞きますね、知らんけど。


のっけから脱線気味なので映画の話をしますと、弱冠二十歳の脱走兵ヘロルトが偽物の大尉になりすましてお供を引き連れ 一晩で100人近くの囚人や脱走兵を処刑するなど残虐の限りを尽くすんですね。


なんでそんなことが出来たかというと、ヘロルトの軍服姿と出任せのウソに兵士たちが騙されたから。しかも敗戦の色が濃くなって上層部もバタバタしてますから ろくに確認作業もせず適当に電話で「よろしく」なんて済ませてしまった。まあ現代ならチャチャッと本人確認できますからすぐバレてブタ箱行きでしょうけどね。


ホロコースト関連の映画はいろいろ観てきましたけど、本作では違う意味での怖さと言いますか 先ほど書きました「外見の威力」ですね、これは思ったよりすごいんだなというのを見せつけられた気がします。
そして、ここまで「なりきる」ことのできる人と それに従いついて行く人との間には何があるんだろうという変な興味がわいてきたのも事実であります。


兵士の中には明らかに胡散臭い目で見てる者もいましたから、たぶん数人は偽物だと見抜いていたはずです。それでもヘロルトを大尉殿と呼び 彼に従った。
結局彼らも「何か変だけどここはひとつ波風立てずに言うこと聞いてればとりあえず大丈夫じゃね?」みたいな気持ちでお供してるうちに本気になっていったんではないかなあと思います。


ヘロルトが大尉になりきればなりきるほど兵士たちも部下になりきっていく。この「同調」というのは面白いようで実は非常に危険なことなんですよね。
なにもこの映画に限らず、当時のナチス・ドイツに限らず、どの国でもいつの時代でも起こりうることです。具体的に何がとは言いませんが、皆さんいろいろ思いつくことがあるのではないでしょうか。

現代のドイツにヘロルトとその部下たちが乗り込んできて街の人々にイチャモンつけながら略奪をする、というブラックジョークみたいなエンドロールが超おもしろかったんですが、実はこれ、監督が絶対に撮りたかったシーンだったそうです。


長い物には巻かれろ。事なかれ主義。おかしいと思いつつも保身のために同調し服従する。70年経っても我々の社会はなんにも変わっていないじゃないか。
そんなメッセージが込められたこの映画。冒頭から緊張感たっぷりで非常に見応えがあります。これはほんとに観てよかった。


最後に一言。「人は見た目が9割」はあながち間違いではない。


 

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  • メディア: DVD