ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ブラック・ブレッド

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ブラック・ブレッド(2010年 スペイン・フランス) PA NEGRE / BLACK BREAD


森の中を行く一台の馬車が謎の男に襲われ、馬車の男が石で頭を叩き潰され死亡する。謎の男は幌の中に死体を放り込み、馬車ごと崖下に落としてしまう。幌の中に子供が隠れていたとも知らず───。
スペイン内戦直後のカタルーニャ地方を舞台としたクライム系人間ドラマ。ゴヤ賞9部門受賞の見応えある逸品です。
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タイトルはカタルーニャ語で「黒パン」。英題・邦題も同じです。劇中で主人公の少年が白いパンを食べようとして「あんたは黒パン!」と言われるシーンがあるのですが、要するに貧乏人は混ざり物だらけの黒パンしか食べられない、そういう格差の象徴であります。

カタルーニャ地方はスペイン内戦で敗れた共和国勢力を支持する者が多かったため、フランコ政権によってボコボコにやられてしまいます。
この映画でもほとんどの貧乏人が共和主義者の左派として描かれていて、主人公の父親もその一人として目をつけられていました。なので、馬車の事件が起きたとき真っ先に容疑者としてしょっぴかれることになります。


で、犯人は本当にこのお父ちゃんなのか、また事件の裏に何があるのか、ということでお話がミステリーぽく進んでいくわけですが、これが子供の目線で映し出されますので 大人としてはかなり心をえぐられることとなります。それどころか、いつしか映画の中の大人たちを主人公と同じ目線で嫌悪感や憎しみを抱きながら見ている自分に気付きます。

いつの時代も子供は大人たちを見ながら現実社会の厳しさや不条理さを学んでいきます。それは大人になる過程で必要不可欠なことですけれど、不幸なことにこの主人公の周りの大人たちは内戦で被害をこうむったために相当醜く歪んでいます。
その結果、主人公はラストで”毒に毒をもって応える”ような顔を見せるわけですね。ここは母親の立場からするとかなり衝撃を受けるシーンです。

本作を撮ったアグスティー・ビジャロンガ監督は、"スペインのデヴィッド・リンチ"とも称される人だそうです。わたしこの監督の作品は初めて観ましたけれど、ショッキングだったりノスタルジックだったり、はたまた柔らかな光や影だったりと多彩な映像に圧倒されました。
以前のレビューでも書きましたが、こういう映画を観るたびに、内戦というものがどれだけ土地や人々に深い傷口を残してきたか、またそれが戦後もなお悲劇の連鎖をもたらし続けているという現実を痛いほど思い知らされます。

ただ一つ残念なのは、事件の真相がある人物によってドバーッと語られてしまったこと。
個々の人物描写が秀逸だったり、かなりのギリギリラインで攻めてくるスペイン映画らしさが良かっただけに、非常にもったいなかったなあと思います。まあそれを差し引いてもね、良い作品であることは間違いありません。

 

ブラック・ブレッド [DVD]

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  • 発売日: 2014/09/03
  • メディア: DVD