ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ムルゲ 王朝の怪物 / 現代社会にも通じる痛快モンパニ時代劇

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時は中宗22年(1527年)。国に疫病が蔓延する中「任王山に巨大な“物怪” (ムルゲ)が出没し人を食い殺したり疫病をばらまいている」との噂が流れ、民衆は恐怖と不安におののいていた。

一方宮中では、一部の重臣たちがこの混乱を利用して王を失権させる企てを進めていた。
陰謀の匂いを感じ取った王は、民衆の不安と朝廷の危機を一掃するため かつての忠臣であり先の政変でやむを得ず追放した朝鮮国最強の武人、ユン・ギョムを呼び戻す。



韓国のモンスターパニック映画でまず思い浮かぶのは『グエムル』です。漢江に流れ込んだ毒物のせいで魚が突然変異して化け物になったというお話ですね。
ほかに『第7鉱区』なんてのもありますが、これはまぁ大したことないので(笑) 観たことない人には『グエムル』がおすすめです。あの造形は素晴らしい。

あれだけアメリカを悪者に描いておきながらハリウッドにVFXを丸投げしたという図々しい 割り切りの良いエピソード付きですが、それはそれとして面白いから是非みてくんろ。 ちなみに『パラサイト』のソン・ガンホ主演です。


で、そのグエムルちゃんがたいへん良かっただけに「またモンスターパニックでしかも時代劇ってどうなの?」と思いながら観たんですけど、なかなかこれが浅いなりにもしっかりした脚本で面白かったんですよ。


子供の頃観たゴジラとかキングコングとかにあったような、ああいうでっかい怪獣の強烈なビジュアルや暴れまくる迫力もいいし、人の死にざまなんかとてもりっぱです。
また無駄なサイドストーリーは入れないとか、単なる悪者とは言いきれない哀しきヒーローとしての位置づけなど、押さえるべきところはきちっと押さえた良作だと思いますね。


そしてキャストも何げに名優揃いでびっくりしました。
特に嬉しかったのは『パラサイト』の家庭教師役チェ・ウシク。思わず娘と二人揃って「お兄ちゃん!」って叫んだもんね。

キム・ミョンミンはもう言わずもがな、相変わらず上から目線の低音イケボがさいこうです。
基本真面目なキャラクターなんだけど、『朝鮮名探偵』のすっとぼけた表情がチラホラ見えるのがまた良かった。この人はほんと面白い。

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さて、失脚の危機にある王様と疫病に苦しむ民衆を救うため ユン率いるムルゲ捜索チームは仁王山に向かいます。

仁王山にはムルゲに食い殺されたと思われる無惨な死体がゴロゴロ(けっこうグロいよ)。
しかしここでおかしな事に気付きます。
これは人の手による殺戮ではないか。でもなぜ死体に疫病の症状が出ているのか。


そしてここからその解明に向けてユンが奔走する・・・ かと思いきや、
「実は殺ったのオレたちだよーん」と兵士たちが言っちゃうしムルゲ出てきよるし (おったんかいw)。


陰謀説もムルゲの噂もどちらも本当でした! という四の五の言わせぬ展開の早さね。オレぜんぜん嫌いじゃないよ。テンポ大事。

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ここからネタバレ↓↓↓



実はムルゲは元々 先代の王様が集めていた珍獣のひとつで、先の政変のときに餌やり係が逃がしていたんですね。
それが仁王山に棲みつき、疫病封じで皆殺しにされた死体を食べてしまったために化け物に変異したというわけです。
(ここで冒頭のシーンが甦り激しく納得)

なのでムルゲに襲われた人は運良く逃げおおせても疫病を発症して死んじゃうんですね。

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で、この巨大で凶暴なムルゲを退治するために、ユンはムルゲが小さい頃飼われていた王宮の地下室におびき寄せることを思いつきます。
てか回想シーンに出てくるチビムルゲ、凶悪顔のチャウチャウ犬みたいで「クゥーン」とか鳴いてかわいい。

あの時はムルゲじゃなくてただの珍獣だったのにね。非道な人間のせいであんな姿になってムルゲ可哀想。

ええいこの際だ、ムルゲよ!わるいやつら全員食って食って食いまくれ!!




ところがムルゲちゃんは人間の善し悪しを見分ける能力はないらしく、動くものには見境なく襲いかかるのでたいへんです。可哀想だけど殺すしかない。

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ユン万事休す!!



陰謀の首謀者である領議政(ヨンイジョン)は「ムルゲは民の心の中にいるのだ」として、今で言うところの集団ヒステリーによって中宗を失墜させ自らが王権を手にしようとしました。
この人の所業は悪いけれど、言ってることは間違いではないと思います。


特に世界的なコロナ禍のいま、人として当たり前の心を失った輩どもが感染者やその家族、学校、医療従事者、飲食店やスーパーと あらゆるものに“誹謗中傷” という名の毒牙で襲いかかっています。
何を恐れ何を憎むべきか分からない彼らの行動は、敵も味方も見境なく襲い食いまくる本作のムルゲのようです。

そんな現代のムルゲを倒すのは、わたしたち一人ひとりの心掛けしかありません。
正しい情報を見極める目と冷静さ、そして何より思いやりです。逆の立場だったらどうなるかという想像力です。


社会を壊すのもわたしたちなら、修復するのもわたしたち。
最後に、ホ・ジョンホ監督の言葉をご紹介して今回のレビューを終わります。

全ては「朝鮮王朝実録」の短い一節から始まった。 中宗の治世中に“物怪”(ムルゲ) と呼ばれる不可解な存在(あるいは事件)のせいで宮殿中がパニックに陥り、王が居城からの退去を余儀なくされたという一節だった。
(中略)
この恐ろしい獣から宮殿を救うのは誰だろうか? 私にとっての答えは既に歴史書の中にあった。民衆だ。歴史を通して、災禍や苦難から何度も国をよみがえらせてきたのは、政治家でも軍事指導者でもなく、民衆なのだ。

ホ・ジョンホ監督の言葉│『ムルゲ』公式サイト



作品情報
▶原題 물괴
▶監督 ホ・ジョンホ
▶脚本 ホ・ジョンホ
▶製作年 2018年
▶製作国 韓国
▶出演 キム・ミョンミン, キム・イングォン, チェ・ウシク, イ・ヘリほか