ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

やがて来たる者へ

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やがて来たる者へ (2009年 イタリア) L'uomo che verrà


第二次世界大戦末期に起こったドイツ兵によるイタリア人の大虐殺 “マルザボットの虐殺” 事件を一人の少女の眼差しでとらえた壮絶でサディスティックな映画です。
あ、サディスティックと言っても変な意味ではなくて、辛さや痛みで観る者の胸をえぐるに十分すぎるほどの出来栄えということです。つまりべた褒め。

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イタリア北部の小さな田舎村。農家の大所帯で暮らす8歳の少女マルティーナは口がきけません。生後間もない弟の死を目の当たりにしたショックで失語症になりました。


映画はそんなマルティーナの独白で始まります。この少女がね、目が大きくて可愛いだけじゃなくて非常に聡明なんですよ。でもまだ8歳なので戦争のことも周囲で何が起きているのかもよく分からない。
村にウロウロしてるドイツの兵隊さんたちは何をしているのか、どうしてお家で家族と過ごさないのか、お父さん含め大人たちは何をコソコソ話し合っているのか。

最初はわたしも正直よくわからなくて途中でDVDを止めて少し調べてみたんですが、要はこういうことです。
ナチス・ドイツの侵攻を受けたイタリアでは、イタリア・ファシスト党がドイツ軍に加担する一方で 住民からなるパルチザン部隊(ゲリラみたいなもの)がドイツ軍に対し抵抗運動を繰り広げていた。国が二つに割れていたんですね。
そんな複雑な状況の中、ドイツ兵は民衆に紛れたパルチザンを一掃するために何の罪もない女子供を含めた一般住民を次々と虐殺していった。この忌まわしい事件は史実であります。

本作はマルティーナの目線でお話が進みますから、誰が良くて誰が悪いという描かれ方はされません。ドイツ兵だっていい人もいるし悪い人もいる。でも間違いなく言えるのは敵も味方も人殺しだということ。
マルティーナが学校の作文で「大人たちは人を殺したいのだと知りました」と書いてお母さんに怒られるシーンがありますが、子どもにとってはドイツ兵もファシストもパルチザンもみんな同じ “人を殺したい人たち” なんですよね。これを言われたら我々大人はぐうの音も出ません。

失語症のマルティーナが 家族のなかで自分と共に唯一命拾いした赤ちゃんを抱きながらふと子守歌を口ずさむラストシーンはたまらんです。
わずか8歳の子供にこれほどの絶望がありましょうか。軽々しく辛いとか可哀想なんて言えない。胸がつかえてしばし椅子から立ち上がれないわたしがおりました。


全てを失って初めて声が出るという皮肉。それでも彼女は生きるのだ。生きなければならない。やがて来ると願ってやまない「希望」のために。

非常にメッセージ性の高い秀逸な作品です。
興味のある人は “マルザボットの虐殺“ とその後を調べてみてください。やり場のない怒りがわくはずです。
世界の歴史には我々の知らない出来事がたくさんありますね。この映画もたいへん勉強になりました。