ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ジュディ 虹の彼方に / 悲劇の大女優のささやかな願い

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『オズの魔法使(1939年)』のドロシー役で一躍人気を博し、以後ミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨したジュディ・ガーランドが 47歳という若さで急逝する直前のお話です。

1968年のニューヨーク。度重なる遅刻や無断欠勤のせいで映画出演のオファーも途絶え、すっかり落ち目になってしまったジュディ。
子供たちと住む家もなくホテルに宿泊しながら巡業で食いつなぐ日々だったが、借金は膨らむばかりで ついには宿泊費滞納でホテルからも追い出されてしまう。

しかしそんな折、まだ根強い人気の残っていたロンドンから公演のオファーが入る。
ジュディは子供たちを元夫に預け、ロンドンで再起すべく単身渡英することを決断する。



『オズの魔法使』は子供の頃一度観たきりだったので 本作を観る前にNetflixで再鑑賞したんですが、今観ても古臭さなど一切感じられず、あの頃の驚きと感動が生き生きと甦りました。
ドロシーことジュディ・ガーランドの歌唱力も飛び抜けて素晴らしい。

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と同時に、よくまあ日本は80年以上も前にこんな映画を作っちゃうような国と戦争したもんだと、変なところで感心するなどしました。
なんだ大袈裟な、と思う人はぜひ『オズの魔法使』観てほしいですね。びっくりするから。


ちなみに「虹の彼方に」という曲はとても好きで、当時習っていたエレクトーンの楽譜に載っていたのを練習してよく弾いていたことを思い出します。

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ところがこの映画、実はとんでもない“いわく付き” でありまして

・子役(ジュディ・ガーランド)は撮影時間に合わせて覚醒剤と睡眠薬でコントロールされ
・時に会社や男性俳優どもに性的対象として扱われ
・ブリキ男役の俳優は顔に塗りたくった塗料に含まれていたアルミニウムで重篤な金属アレルギーをおこし
・爆発シーンで俳優やスタントマンが後遺症の残るほどの大怪我をし
・とにかくトラブルだらけで監督が5人も変わった (監督としてクレジットされたのは3番目のヴィクター・フレミングだけ)


と、もはや呪われてるんじゃないかと思うほどびっくり仰天の裏話があるわけです。

てか酷い、酷すぎる。夢と希望の代名詞のような映画なのにそりゃないよ、と全て打ち砕かれた気持ちになってしまうんだけど、まあ 映画自体は間違いなく名作 なのでね、そこは大いに褒め称えていいと思います。



本作では主にロンドン公演中の出来事が描かれますが、観れば観るほどジュディが気の毒で可哀想でなりません。
確かに子役時代からスター街道を歩んできたせいでワガママにもなるし、世間知らずで多少傲慢なところもあるかもしれない。

でもそれ以上に彼女は「金の成る木」として会社から何もかも制限され薬物でコントロールされ、常にスターであることを強いられてきたわけでね、中年になる頃にはそりゃあ心も身体もボロボロになりますよ。

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ハリウッドにはそんなジュディの心の内をわかってくれる人がいなかったのかなあ。なんか悲しすぎますよね・・・。



ジュディの娘であるライザ・ミネリは「母を殺したのはハリウッドだ」と発言していて、自身のFacebookで「この映画を作ることは止めないが容認はしない」とも述べています。
うん・・・ 娘としてはそうだろうね、その気持ちはすごくわかる。

ちなみにジュディ、絶対と言われたアカデミー賞主演女優賞をグレース・ケリーにかっさらわれるなどして一度も取れなかったんですよね。
で、皮肉にも(と言っては語弊があるかもしれないが) 本作でレネー・ゼルウィガーがアカデミー賞主演女優賞を取った。
これまたライザ・ミネリとしては何とも複雑な気持ちになったのではないかなあと思います。

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第三者の立場から見ると、本作はある意味ジュディにとってトラブルメーカーの汚名返上的な作品になっていて良かったなあと思うんですけどね。



そしてもう一つ、本作を語る上で忘れてならないのが 「ゲイ・アイコン」としてのジュディです。

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そのきっかけはまさに『オズの魔法使』
ドロシーの旅のお供である「脳みそのないカカシ」「心のないブリキ男」「勇気のないライオン」それぞれが持つコンプレックスに対し彼女が見せる理解と優しさ、そして彼らを支持する姿勢にゲイ・コミュニティの人々が共感したんですね。

ちなみに、LGBTの尊厳を象徴するレインボーフラッグは「虹の彼方に」に着想を得たデザインと言われています。(※別説もあり)

実際、ジュディは当時から同性愛者への寛容な姿勢と理解を示していた数少ない有名人でありました。
本作の後半で彼女の大ファンであるゲイカップルとの交流がかなり丁寧に描かれるのも、このへんを意識したものだと思います。

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そして最後に。
ジュディが子供たちのことを口にするたび、
「やっぱり、おうちが一番( There's no place like home. ) 」 という ドロシーが何度も唱えるこの言葉が思い出され、それが「ダメな母親だけど、とにかく子供たちと一緒に暮らしたいの」というジュディの願いとオーバーラップしているようで何とも切ない気持ちになりました。



ロンドン公演時のジュディ。この半年後に薬物の過剰摂取で亡くなった。


本人にきちんと敬意の払われた伝記映画。
レネー・ゼルウィガーの、全曲吹き替え無しで挑んだ懇親の演技が本当にみごとでした。オスカー受賞も納得です。



作品情報
▶原題 Judy
▶監督 ルパート・グールド
▶脚本 トム・エッジ
▶製作年 2019年
▶製作国 イギリス, アメリカ
▶出演 レネー・ゼルウィガー, ルーファス・シーウェル, マイケル・ガンボンほか