ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ソハの地下水道

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ソハの地下水道 (2011) W ciemności / In Darkness

【 下水道のスペシャリストは、愛すべきアウトローでした。】


マンホールから女の子とおじさんが顔を出してるジャケットが印象的で何となく借りてきたこの映画、ソハって地名かと思ったら人の名前でした。
ざっくり言いますと、ソハというポーランド人の男がユダヤ人を地下水道に匿うお話です。そうです、ホロコーストです。

ユダヤ人を助けると聞いて思い浮かぶのは「シンドラーのリスト」や「杉原千畝」あたりですね。

ではソハおじさんはポーランドのシンドラーかというと、そういうことでもありません。
この人は下水道の修理屋さんで、副業と称してこそ泥なんかをしています。

たまたまゲットー(ユダヤ人隔離地域)から穴を掘って隠れようとしていたユダヤ人家族に出くわして「地下水道なら俺詳しいぜ、匿ってやるから金払え」と持ちかけ、お金を取れるだけ取ったらドイツ兵に通報するスンポーでありました。ソハの野郎、この人でなし!!


ところが、人というのは付き合っていくうちに情がわいてくる生き物でしてね。

金儲けが目的だったはずの小悪党が、いつしか自身の命の危険をおかしてまでユダヤ人たちを隠し通そうとする。でもそこに道徳やら正義やら自己犠牲なんてものはありません。
自分が匿っているユダヤ人と友達になったから、その友達を収容所送りにしたくないから、ただそれだけの思い。悪人が考えを改めて善人になったというお話ではないんですね。実はこの映画はそこがいいんです。


ソハは自分がしたいことをして、自分の信念で動いているだけ。ファシズムだろうが何だろうが、へつらうことも同調することもしない、そんな根っからのアウトローを美化することなく描いているわけです。人間臭くていいじゃないですか、ねえ。


道端でおばちゃんから野菜を買っている横で、ドイツ兵がユダヤ人を撃ち殺す。ずらっと並ぶ絞首された死体の中に、昨日まで一緒に仕事をしていた仲間がいる。
戦時下の異常な状態は戦場だけで起きているのではなく、日常の中にリアルに存在します。

戦争を体験したことのないわたしたちは「怖いねー酷いねー、信じられない」などと言ってますけれど、いつまで他人事、よその国のことだと呑気にかまえていられるのでしょうか。ちょっと不安になったりもします。

14ヶ月もの長い潜伏期間ののち、ようやく自由を得たユダヤ人たちと喜びを分かち合うソハ。テロップにはその後ソハの身に起こった悲劇について書かれてありました。そして彼に投げかけられた心無い言葉も。
「人間は 神を利用してまでお互いを罰したがる」という言葉が、胸にグサリと突き刺さります。

そんなわけで、思っていたよりずっと、いや遥かによく出来た秀作でありました。ドラマ性を持たせるためか大人向けシーンがいくつかありますけれど、それはそれでね、いいと思いますよ。だって男と女だもの。
144分と長尺ですが、出来がいいのでそんなに長く感じません。たいへん良い映画です。


 

ソハの地下水道 [DVD]

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  • 発売日: 2013/04/19
  • メディア: DVD