ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ヘレディタリー 継承 / ばあちゃん死んだだけなのに

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グラハム家の家長であるエレンが死んだ。
家族を思いのままに操ろうとする母エレンに対し愛憎混じり合う思いを抱いてきたアニーは、夫と二人の子供たちと共に粛々と葬儀を執り行う。

家族を亡くした喪失感を乗り越えるべく普段の日常に戻ろうと務めるアニーたちだったが、やがて彼らの身辺で不可解な現象が頻発するようになる。
奇妙な光が部屋の中を走る・誰かの話し声が聞こえる・暗闇に人影のようなものが見える…。
特に、エレンに溺愛されていた娘チャーリーの異変はアニーを不安にさせた。

そしてついに最悪な出来事がおこり 一家の絆は修復不可能なまでに崩壊、さらに想像を絶する恐怖が彼らに襲いかかるのであった。



「超恐怖」「完璧な悪夢」「永遠のトラウマ」
なんていう攻めたキャッチコピーが並ぶ本作ですが、実はこれ、今をときめく『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の長編映画デビュー作なんですねえ。

本当はこちらを先に観るつもりだったんだけど、機を逸して『ミッドサマー』の後になっちゃいました。いやー、怖くて悲惨なお話なだけに面白かったですね!(鬼畜発言)



※ ちなみに 『ミッドサマー』は面白すぎて思うように言語化できず感想書いてません。くだらないツイートはしました。

いやこれは別に見たかったわけじゃなくて、あるシーンで女性の下半身は(陰毛があるとはいえ)丸見えなのに男だけ隠すのおかしくね?って話です。




さて、時を戻そう。(ぺこぱ?)

主人公のアニーはミニチュア制作を生業とするアーティストなんですが、この設定がストーリーや演出にとてもよく効いています。

定点カメラで精巧に作られたドールハウスにズームアップしたと思ったら、模型の空間そのままに現実のショットに切り替わるオープニングなんて鳥肌ものですよね。まるで悪魔の目線のようでゾッとします。天才か。

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アニーは遺族が集うグループカウンセリングの席で、母が解離性同一性障害を発症していたことや父が精神分裂病で餓死したこと、兄が極度な被害妄想のせいで自殺したこと、そして自身も夢遊病があり 無意識に子供を殺しかけたことがあると話します。(どんだけ!)
そして、この先天性の精神疾患が子供たちにも現れるのではないかと心配しています。

てか、すでに子供たちもおかしいんですけどね。
まぁお兄ちゃんのピーターはある程度 “内気” で済まされるかもだけど、妹のチャーリーはやる事がかなりやばい。

f:id:madamkakikaki:20200922011840j:plain 手に持ってるの、ちょんぎった鳥の頭だかんね!


思うに この家族は八割がた機能不全に陥っていて、アニーが夫や子供たちに対して抱いている“負い目” によりかろうじて繋ぎとめられているような気がします。
具体的なことは省きますが、なにしろアニーは自分のせいで家族間が上手くいっていないのだと思っている。
もちろん諸悪の根源は母エレンなんだけど、それに対処するため良かれと思ってやったことがことごとく裏目に出てしまったんですね。

アニーの夢遊病がいつからあるのかはわかりませんが、そうやって自分を責め続けてきたことで彼女はどんどん具合が悪くなったのではないかなあと思います。


アニーの口から遺伝性の精神疾患が告白されたことで、ああそっち系のお話かあー、と思っていたら本格的なオカルトだったというのが逆に新鮮で、怖いんだけどその展開に目が離せなくなります。

主人公が病んでいるような場合、どんなに恐ろしいシーンでも その人の思い込みとか潜在意識の中で起きているものを見せられてる可能性もあって「ほらやっぱり人間が一番怖いんだよ!」なんていうオチだったりするんだけど、本作ではマジモンの悪魔が出てくるので (姿は見せないが事実として「いる」)、中盤あたりからはかなり怖い。ホラー慣れしてても怖い。

雰囲気としては『ローズマリーの赤ちゃん』とか『エクソシスト』あたりでしょうか。
話が似てるということじゃなくて、あくまでも雰囲気とか空気感とか、そういうとこ。


てか一番怖かったのはトニ・コレットの発狂顔じゃないですかね。
いろんな表情をしないといけないので大変だったと思うけど、この人の顔芸はさいこうでした。いいキャスティングだなあ。

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キャスティングといえば、娘チャーリー役のミリー・シャピロも良かったですね。幼さの中に不穏な空気を纏っていて、物語のキーパーソンとして非常に上手い演技をしていました。

この子は(設定上)チック症で 口の中で「コッ!」と音をたてる癖があるんだけど、この「コッ!」が後半めちゃめちゃ怖い。
ちょっとあの音はね、観終わってもしばらく頭から離れなかったよ… ´Д`)))


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ほんとはこんなに可愛い女の子♡



さて、『ヘレディタリー』には「遺伝性の〜」とか「代々受継ぐ〜」などという意味があります。

遺伝については先ほど書いたとおりですが、問題はこの家族が祖母エレンから何を受け継いだのかということ。
もう旧作扱いの作品なのでネタバレしますが、それは “悪魔(ペイモン)の血筋” です。「なんで?」とか「いつから?」とかそういうのは無しね。聞かれてもワシ知らん。


要は悪魔崇拝カルトの話です。エレンはカルトの教祖で、悪魔ペイモンの魂を蘇らせようとしていました。
で、そのためには宿主としてエレンと血縁にある男性の体が必要なんだけど 息子つまりアニーの兄(ダジャレではないよ) はそれに勘づいて自殺しちゃったので、孫であるピーターにお鉢が回ってきたというわけです。

ところがエレンが高齢になり死んでしまった。
アニーは母の企みなど知りもしないので、このまま何もしないとペイモン様を召喚できない!ってことで、カルト信者の皆さんがこの家族に呪いをかけようとするんですね。
どういう呪いかというと、宿主(ピーター)以外は用無しなので死んでいただきまひょ、というもの。お、おっかねー!!


なので、怪奇現象もチャーリーの事故死も アニーが死者と話せるからと勧められるままに降霊の儀式をしたのも、全て仕組まれたものだったわけです。そしてその罠にかかってしまった最大の理由が「恐怖心」なんです。
カルトは、というか悪魔は、この「恐怖心」につけ込んでアニー家族をバラバラにしていったんですね。


エレンの死を機に、と言っては変だけど、アニーがあの時点で母との共依存を断ち切っていれば事態が変わったかもしれない。
家族を操ろうとする母はもういないのだ、自分たちは解放されたのだときっぱり割り切ることができていたら、あんな恐怖のつるべ打ちにあうこともなかったかもしれない。

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それにしても救いのない話だったなあ。
しかも身近な人の死がこんなに怖いものになるなんて。
「恐怖」という感情がいかに容易く人を支配し、コミュニティを崩壊させるものであるかをまざまざと見せられましたね。

てか一番可哀想だったのは旦那さんだよ。まさかあんな死に方を…。



というわけで、最後まで目の離せない緻密な脚本と天才的な画作り、やり過ぎないのにめちゃめちゃ怖い演出テクニックと、なんかもういろいろ凄い映画でした。(語彙力)

アリ・アスター監督、やっぱり只者じゃない。


作品情報
▶原題 Hereditary
▶監督 アリ・アスター
▶脚本 アリ・アスター
▶製作年 2018年
▶製作国 アメリカ
▶出演 トニ・コレット, ガブリエル・バーン, アレックス・ウルフ, ミリー・シャピロ