ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

プライベート・ウォー / 報道されない事実こそ真実である

f:id:madamkakikaki:20200822162434j:image

プライベート・ウォー (2018年 アメリカ) A Private War



2012年2月22日、シリア紛争における反体制派の拠点ホムスで取材活動中に政府軍の砲撃を受け殉職した戦争特派員 メリー・コルヴィン(享年56)の最後の10年間を描いた生々しい作品。

ISと戦うクルド人女性兵士が主役の『バハールの涙』に出てくる黒眼帯の女性記者は、彼女をモデルにしたキャラクターなんですよ。

f:id:madamkakikaki:20200806010931j:image

こういう職業の人を伝記映画でとり上げるとき一番やってはいけないのが「美化」であります。
もちろん彼らの仕事は素晴らしいし 最前線から命懸けで報道する姿は見る者の胸を熱くします。カッコイイと思う人もいるでしょう。でもそれは安全なところでテレビのニュースをのんびり見ているわたしたちがそう思うだけであって、彼らにしてみればそんな薄っぺらい賛辞など屁の突っ張りにもならんのですよ。


地獄絵図を見過ぎてPTSDになり苦しんでもなお勇気をふりしぼり 使命感を支えに戦場で取材を続ける人にね、「あなたの働く姿ステキね、美しいわね」なんて言えますか。わたしは言えません。
何か言うとしたら「わたしたちが出来ないことを命懸けでやってくれてありがとう」「あなた自身の言葉で真実を伝えてくれてありがとう」じゃないかなあと思いますね、わたしはね。

そういう意味でこの映画はとてもいいです。戦場でのメリーさんと一時帰国したときのプライベートなメリーさんの両方をバランスよく描いている。
いい所も悪い所も勇敢な姿も情けない姿も、何だったら緊張がほぐれて性に奔放になっちゃうとこまで見せる。(/∀\*)キャ

こういうね、人物を美化したり神格化したりせずに一人の職業人として描いているのがいいんです。「挑む女は美しい」なんてエモいようで実は軽薄極まりないキャッチコピーはこの映画にそぐわない。てかいらない。あくまでわたしの意見ですけどね。

 

肝の座ったゴリラみたいな貫禄(見た目ではないよ) でベテラン風をふかすメリーさん。
カメラマンの兄ちゃんに「ついてきな!」つって咥えタバコで颯爽と歩くメリーさん。
常に高級ブラをつけてる理由を聞かれて「戦場で死体で掘り出されたとき 世間に感銘を与えるためよ」って答えるシーンなんか最高ですね。まじメリーさんSUGEEEE!と思いましたよ。あたしゃ戦場で死んだら本望だよ、と言ってるようなもんですからね。

でも本当はそうじゃない。戦場は大嫌い。行きたくもないし見たくもない。
そりゃそうでしょう、それが当たり前です。なのになぜ行くのか。そこには当然戦場記者としてのプライドと使命感があります。

と同時に高揚感もあるわけで、劇中で「中毒」と言われてましたけれど 要するに危険であればあるほど使命感が増すと言うか記者魂に火がつくと言うか、アドレナリン出まくり状態になるんだと思いますね。

f:id:madamkakikaki:20200806011203j:image

もうこの人は戦場に行きすぎてノーマルな生活ができなくなってるんですよ。冒頭で元旦那さんとイチャイチャしながら「再婚すっか♡」なんて言ってましたけど結局元サヤには戻れなかった。もはやメリーさんは戦場と結婚したようなものなんですね。
戦場と結婚し戦場で死ぬ。なんともロックな女性であります。


映画のラストで再びオープニングの映像とご本人の音声が流れて「ああこれはそういうシーンだったのか」と胸が締め付けられる思いがしたんですけれど、不思議と悲しいというよりもお疲れさまでしたと声をかけたいような そんな気持ちになりました。


f:id:madamkakikaki:20200806011145j:image


マシュー・ハイネマン監督の代表作といえば『カルテル・ランド』『ラッカは静かに虐殺されている』なんかがありますね。この人はもともとドキュメンタリーに長けた監督さんですから 今回の劇映画も徹底的にリアリズムを追求した映像とストーリーになっていて非常に見応えがあります。
そして何より ロザムンド・パイクの徹底した役作りと全身全霊の熱演ですね。これはもう必見と言っていいでしょう。

時同じくして『メリー・コルヴィンの瞳』という映画が出てますけれど、これはメリーさんの相棒 ポール・コンロイ氏(カメラマン)の書記をもとにご本人の実写映像で綴ったドキュメンタリーで、メリーさんが殉職したあと彼女の意志を継いだジャーナリストたちのお話が主体のようです。こちらもぜひ観てみたいなあー。