ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

白いリボン

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白いリボン (2009) Das weiße Band / The White Ribbon


封建的な集落で、人命にかかわる不可解な事件が連続して起こる。大人、子供を含め誰もが疑わしいが誰もが疑わしくないという矛盾。
一見平和で平凡な社会の中に潜む集団心理の恐ろしさを、美しいモノクロ映像をバックに静かにそしてスリリングに描く、巨匠ミヒャエル・ハネケの不快指数アゲアゲ作品です。
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村の医者が庭に張られた針金に引っかかり落馬して大怪我を負う、地主のキャベツ畑が荒らされる、行方不明になった男爵家の息子が逆さ吊りで見つかる、納屋が放火される、助産婦の息子(障害児)がリンチにあう。誰がやった、おまえか、いや僕じゃないし何も知りません。

住民の大半が男爵家の雇用のもと働いているという閉鎖的な村。その中でもさらに優劣のつけられた小さな共同体の中で渦巻く妬みや憎しみ、欺瞞、暴力は、なにもこの映画の中だけの話ではなくて、程度の差こそあれわたしたちの身近なところで常に起こっていることと変わりありません。
学校で、上履きがゴミ箱に捨てられていたとか買ったばかりの筆箱が壊されていた、なんてのはその例です。たいてい犯人はわかっていても大人の事情でうやむやになり、やられた子は泣き寝入りのパターンですね。

道徳を守りましょう、正直でありましょうと言いながら、平気で悪いことをしているのに「自分やってませんよ」みたいな顔をして善人ぶる大人たち。
そんな嘘つきでエゴにまみれたろくでなしの、そのくせ子供に純真無垢であれと言いくさる大人たちを嘲笑うかのように、軽く善悪の彼岸を越え、人の命を危険にさらして悪びれもしない少年少女たち。
そしてなおかつ、何もなかったかのように都合の悪いことを露呈させないムラ社会暗黙のルール。うわー、おっかねえ!!

「映画は映画」とわりと俯瞰で観るタイプのわたしですが、ちょっとこの映画は不快というか身につまされすぎてキツイというか、人間誰もが持つ負の感情を一気に見せられて凹みましたですね。はうう。
でもこの映画で描かれているものは現代社会と何ら変わりないわけで、どこにでもあるありふれた悪意が集団心理によって歪められ、やがて誤った正義感や全体主義を産み出すというね、自分で言っててわけわからなくなってきましたけどそういうことです。
そしてそこには「大人が子供に及ぼす影響」も大いに関係しております。子供に白いリボンを巻く大人の手は、果たして汚れていないと言えるのか。

最後まで真相はわからないまま、でもたぶん犯人は子供たちだろう、いやもしかしたら大人かも・・・
不快感とモヤモヤしか残らないハネケ節炸裂の本作ですが、唯一の救いは、村に赴任してきた教師いわば「よそ者」の回想として語られているという点です。これだけでもかなり気持ち的には楽になります。
まさしく大人の映画。決して万人受けはしませんけれど、我が身を振り返り色々考えさせられる作品でした。ミヒャエル・ハネケ恐るべし。