ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

ガザの美容室

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ガザの美容室 (2015年 パレスチナ) Dégradé


パレスチナ自治区ガザの美容室。中には13人の女たち、外には武器を持ってうろつくマフィアの男たち。
パレスチナ映画なのにイスラエルの存在を描かない真意とは。実際にガザ地区で生まれ育った双子の監督 タルザン&アラブ・ナサールが手がけた初の長編映画です。

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東京23区よりはるかに狭い地域に、パレスチナ難民ら200万人が閉じ込められたように暮らすガザ地区は「世界一の監獄」とも呼ばれているそうであります。

イスラエルによる境界封鎖などで産業が破壊され、失業率は40%以上、水の95%は汚染されていて病気の3割は水が原因、火力発電所が機能せず電力供給は日に4時間程度、しかも常に戦闘状態にありいつなんどき空爆があるかわからない。平和ボケしたわたしなんかは「うわー住みたくねえ!」などとつい思ってしまいますけれど、実際そこに住むしかなく、生きていかねばならない人々がいる以上、少しでも彼らの暮らしや考えていることを知るべきでありましょう。

本作は”美容室の中” という狭い空間で繰り広げられる女性たちの会話劇でお話が進むワンシチュエーション映画です。
登場人物をざっと紹介しますと、

店主→仕事がトロい
アシスタント→仕事がトロい
客①→色欲ババア
客②→ヤク中
客③→カタブツ
客④→今夜結婚式
客⑤→臨月の妊婦
客⑥→喘息持ち
客⑦→バツイチ
その他→付き添いの家族や店主の娘

とまあこんな感じです。
今や美容室に男性のお客が来るのは珍しくも何ともないご時世ですが、イスラム圏は違います。宗教的に虐げられた女性がヒジャブを取り、肌を出し、唯一女性らしくいられるのが美容室なわけですね。

で、この美容室、まあびっくりするほど仕事が遅いのであります。特にアシスタントは恋人との電話でしょっちゅう中断するので迷惑千万です。夜に結婚式を控えた女性なんて、髪を巻いて化粧するのに半日くらいかかっていますし、そもそも誰一人終わっていません。

当然お客のイライラも募ります。他の店に行けばいいのにと思ったりもしますが、簡単に外に出られる状況でもありません。
そのうち外は暗くなり、イスラム警察とマフィアの銃撃戦がおっ始まるわ停電になるわ、妊婦の陣痛が始まるわ、もう大変です。でもこんなのが彼女たちの日常なんだと思うと、わたしたちがいかに当たり前のように平穏な暮らしをしているかを身にしみて感じます。

先程も言いましたように、この映画のメインは女性たちの会話劇です。あくまでも”女性” としての素顔が会話の中にあふれています。
仕事もしないで武器持ってウロウロするだけの男たちやDV亭主への不満、ちょっとエッチな話なんかも飛び出したりして、ああ、どの国も女性が集まると同じようなもんだなあと思いましたね。
でも「男が政治をやってるから戦争ばかりするんだ、女だけの政府ならこんなことにはならない」なんていう発言を聞くと、それが正しいかどうかは別として、虐げられつつも強く、かつ美しく生きようとする彼女たちのたくましさを感じます。

戦争中であっても、常に死ではなく生きることを考える。それこそが母性であり女性の力。
ラストの ”この映画を母に捧げる” というメッセージに、タルザン&アラブ・ナサール監督の思いが全て込められているような気がします。

ちなみに本作の原題『デグラデ』は、layer(層)の意味の美容用語(レイヤーカットとか言いますね) のほかに、“劣化していく”という意味があるそうです。これ、ものすごく深いタイトルだと思いませんか。



 

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