ガツンとくるやつ、ください。

新作・旧作・ジャンル問わず。海外映画が好き。作品により多少のネタバレ含みます。

長沙里 9.15 / 歴史の陰で儚く散った学生服

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朝鮮戦争さなかの1950年夏、北朝鮮の猛攻に敗走を重ねていた韓国軍は 戦局を打開するためマッカーサー将軍の指揮下で大規模な奇襲上陸「クロマイト作戦 (仁川上陸作戦)」の実施を決定した。
これをなんとしても成功させたい軍上層部は、北朝鮮を欺くため 日本海側の長沙里(チャンサリ)海岸に陽動部隊を上陸させるという無謀な作戦を発動する。

しかし陽動部隊の内実は、平均年齢17歳、訓練期間2週間という未熟な学徒兵たち772人。
使い古された武器とわずかな弾薬、そして最小限の食料だけを支給された彼らはまさに「捨て駒」であった。
それでも彼らは祖国のため、そして家族のため、容赦なく降り注ぐ敵の銃弾を受けながら決死の上陸を試みる。



1997年3月6日 長沙里海岸で発見された作戦艦ムンサン(文山)号。これこそが、本作で多くの学徒兵を乗せて長沙里へ向かったあの船です。

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実際、これまで韓国の歴史本や教科書でも数行程度しか触れられてこなかったという長沙里上陸作戦ですが、このムンサン号の発見により、クロマイト作戦成功の裏に隠れ忘れられた陽動部隊の存在がやっと日の目を見ることになったんですね。

賭けに近いといわれたクロマイト作戦以上に無理がある、誰が考えてもまず不可能な作戦。
しかも台風で国連軍の応援部隊も来れないわ長沙里手前で座礁してしまうわ、たどり着くだけでも相当大変なことでした。

しかし、多くの若き犠牲のもとに高地奪還は成功し、結果 朝鮮戦争の形勢を逆転させる決定的な契機になったとして、この作戦は奇跡の成功と見なされています。


また、この船はかなり使い古した徴用船で、船長や船員は民間人でした。
彼らもこの陽動部隊とともに全員命を落としています。


参考記事 ↓↓↓
www.donga.com


もし本作に興味を持たれるのであれば、クロマイト作戦の実行にあたり 北に察知されにくい民間人たちがスパイとして使われたというお話『オペレーション・クロマイト』(2016年) も併せて観られると、より歴史の理解が深まることと思います。

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わたしの大好きなイ・ジョンジェ出てます。
リーアム・ニーソン様もマッカーサー役でちょこっと出演( ´艸`)♡



本作では、実際に陽動部隊の指揮をとったイ大尉を名優キム・ミョンミンが演じています。

また、元水泳選手で学徒兵をまとめる分隊長ソンピル役にSHINeeのミンホ、そのソンピルに何かと突っかかるハリュン役にキム・ソンチョル、さらに国連軍の女性従軍記者マギー役にミーガン・フォックスと、非常に魅力的なキャストが配置されています。

で、ソンピルを始めとした学生たちのやり取りが本作のメインとなるんですが、若さゆえの熱情や無謀さで偉そうな口をきいてみたり、イキって突っ走ったかと思えばビビったり震えたり泣いたり。
そりゃそうだよなあ、まだ16〜17の子供だもんなあ。

最後の言葉がみんな「お母さん」なのは万国共通なんですね。つらいなあ…。

ストーリーは脚色ですが、何より学生たちが個性豊かに生き生きと描かれているし、彼らを息子や弟のように見守り導く大人を配置したのもドラマ的に良かったですね。


また、ソンピルの立ち位置もよく考えられていました。
彼は ある理由で祖国である北朝鮮に恨みを持つ越北者です。
食料調達のため立ち入った民家で偶然従兄弟(いとこ)に出くわし、会話を交わしたことで北の出身であることが仲間にバレてしまい一触即発の事態になるんだけど、これは脚色とはいえ決してありえない話ではないと思いますね。

日本で言えば東日本と西日本で戦争するようなもんでしょう?
戦場で親戚同士、友人同士が銃を向け合う可能性は大いにあるわけで、そうした悲劇も起こりうるんだよということを本作ではしっかり描いている。

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兵隊の消耗や戦局の悪化でいよいよヤバいとなると、10代の学生たちをろくすっぽ訓練もせず戦場に駆り出したのは北朝鮮も同じです。日本の学徒動員だってそうでしたよね。
死んだ敵の傍らに落ちていた手紙をソンピルが読むシーンも非常に胸が痛みます。


お母さん、僕は軍服の下に制服を着ています。もし韓国軍に会ったら、京畿高校の学生だと言うつもりです。そしたら命だけは助けてもらえるかもしれないからです。


こんなあどけない手紙、親としてはもうたまらんですよね。こうして思い出しながらブログ書いてるだけで涙が出ます。

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北の猛反撃と飢えで仲間が次々と倒れていくなか、学徒兵たちに残されたのは命をかけた撤収のみ。

しかし、やっと到着した国連軍の援護船は、激しい銃撃のため長く留まることができず、多くの学徒兵を置いたまま出発するしかありませんでした。
その悲惨で絶望的な光景は まるで『ダンケルク』(2017年)の撤収シーンのよう。

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戦死者139名、負傷者92名、そして
彼らを除くほとんどが行方不明。

祖国からも国連軍からも見放され、まるで無かったことのように歴史の陰に葬られた772名の学徒兵と上官たち、そして10名の民間人。

韓国軍兵士としての認識番号もなく、軍服も軍靴も与えられず学生服のまま長沙里に散った彼らのため、帰還したイ大尉は 全ての学徒兵に認識番号を付与し彼らの記憶を世に残すことに身を捧げたそうです。


武器や軍装も含めしっかりと時代考証がなされ、戦争アクションとしてもドラマとしても非常に優れた作品でありました。

どうか彼らの御霊が安らかでありますように。



最後に予告動画置いておきます。
youtu.be

作品情報
▶原題 장사리:잊혀진 영웅들
▶監督 クァク・キョンテク, キム・テフン
▶脚本 イ・マニ
▶製作年 2019年
▶製作国 韓国
▶出演 キム・ミョンミン, チェ・ミンホ, ミーガン・フォックス ほか